30歳女性、はじめてのシェアハウス生活~川崎とMAZARIBAと住人と②~

 「シェアハウスには興味があるけれど、もう一歩踏み出せない」

 こういったシェアハウス未経験の人は少なからずいるのではないだろうか。今回お話を伺った前田夕貴さん(30)、ユキちゃんはMAZARIBAが人生初シェアハウス。シェアハウスどころか実家を出ることもはじめての経験だ。

 ユキちゃんのMAZARIBAでの日々の記録は、誰かの背中を後押しするかもしれない。

 

実家からいきなりシェアハウス

ユキちゃんと MAZARIBAの 日々

 シェアハウスで生活をする人の中には、過去に別のシェアハウスで暮らしていた経験を持つ人が少なくない。なかにはシェアハウスから次のシェアハウスへと渡り鳥のように移動していく人もいるほどだ。

 ユキちゃんも最初はそのタイプかと思った。別のシェアハウスに住んでいて、その生活の中でMAZARIBAの話を聞いて引っ越してきたのではないかと。しかし、その予想は全く違った。

「これまでは実家に住んでいました。MAZARIBAのことは全然知りませんでした。ジモティーで見つけたんです。私、ジモティー好きなんです」

 ユキちゃんはシェアハウスはもちろんのこと、一人暮らしもこれまでしたことがないと言う。実家から大学・職場へと通うという生活をしてきた。

 

 転機となったのは母の発言だという。

「お母さんに『一度親元出てみれば?』って言われたんです。ずっと実家にいるよりも一度外に出てほしいという気持ちからだと思います。それで私ここに来たんです。私は実家が好きなのでずっと実家でもよかったんですけどね」

 ユキちゃんは家を出た経緯を笑って話す。なお、家族とは今も良好で、実家を出たことでよりありがたみを感じられるようになったそうだ。

 母からの発言が契機となり、実家を出ることを決めたユキちゃん。

 職場の川崎で物件を探し始め、そのときにたまたま見ていたジモティーでMAZARIBAを見つけた。費用も安いし、通勤にも不便しない。いくつか見ていたなかで一番の物件だった。

 こうしてユキちゃんのはじめての実家以外での生活がMAZARIBAではじまった。

 

はじめてのシェアハウス生活

 ユキちゃんはMAZARIBAの相部屋(ドミトリー)に住み始めた。はじめての家族以外との生活で、選択したのは個室ではなくドミトリーだった。

 入居当初、緊張はしなかったのだろうか。

「生活にはすぐに慣れました。私、あんまり緊張とかしないんです」

 ユキちゃんにとってむしろドミトリーという環境はよい刺激になったようだ。他人の生活を知れることは楽しかったという。また、人生経験の全く違う人と部屋のなかで仕事の話や他愛もない話をすることも充実した時間となった。

 

 ユキちゃんはMAZARIBAでの生活にすぐに順応した。また、家の中でのお気に入りの場所も見つけた。

「MAZARIBAは台所が好きですね。晩酌しながらおつまみつくって、音楽を聞きながらダラダラしたりします。あとは食後のコーヒーを屋上で飲むのも好きです。住人と話したり。実家にいたときよりも夜更かしもしちゃいました」

 MAZARIBAの生活で習慣となっていたのがお弁当づくりだ。翌日の仕事に持っていくお弁当。この毎日の習慣が楽しくて、気がついたらお弁当箱は約10種類にまで増えていた。箱に詰めるのが好きで、凝り性だとユキちゃんは自己分析する。

 MAZARIBAで充実した日々を過ごすユキちゃん。そして気づいたらユキちゃんはMAZARIBAの中で一番の古株になっていた。

 

MAZARIBAでの出会いと別れ

リビングでくつろぐユキちゃん

「そう言えばMAZARIBAに住み始めたころは4人だけでしたね。今は8人住んでいます。倍の人数ですね」

 多くのシェアハウスは一般的な賃貸契約と違い、2年間や3年間など期間が決められているわけではない。そのため、住んでいる人が短期間で入れ替わることも珍しくはない。いろいろな人と生活することが出来る点もシェアハウスの魅力だ。

 MAZARIBAにおいてもそれは同様で、様々な人が暮らし、そして旅立っていた。そのサイクルのなかで少しずつ賑わい、住んでいる人が増え始めた。

「シェアハウスって住んでいる人で印象ががらりと変わるんですね。入って来たころは洗練された大人な場所だなと思いました。今は同年代の人が増えましたけれど、当初は私よりも年上の人が多かったんですよ」

 

 住み始めたころ、他の居住者の個性に対する憧れのような気持ちを持つことも少なくなかったそうだ。最近は以前とは違った捉え方もできるようになった。それは単純に同年代の人が増えたからだけではなく、MAZARIBAでの生活を通じたユキちゃん自身の変化によるところもある。

「今は目が慣れてきたっていうんですかね。他の人をいいなぁと思うだけでなく、自分の持っているものを大切に思えるようになりました。精神的に前よりも自立できたのかもしれないですね」

 すぐに退去できる点はもちろんシェアハウスの大きな魅力だ。その一方で、ひとつの場所に居続けることで多くの人と生活を共にする経験を積むこともできる。こういった点もシェアハウスの魅力と言えるのではないだろうか。
 

MAZARIBAでの最後の日々

 そんなユキちゃんも2019年11月いっぱいでMAZARIBAを退去することになった。

「寂しいですよ! 心にぽっかり穴があいてしまった気持ちです」

 ユキちゃんは10月で川崎での仕事を辞めた。そしてMAZARIBAでの最後の1か月はこれまでよりも長い時間を家の中で過ごした。生活のサイクルが変わったことで今まで知らなかった昼のMAZARIBAの顔も知ることができた。

 

 最後の1か月、気づいたらお弁当をつくる習慣がなくなったという。緊張の糸が切れたのかなと、ユキちゃんは笑って話す。

「仕事を辞めてからちょっとだけ昼夜逆転しちゃっています。明け方くらいまで話したりとか。でも、それがすごくおもしろかったです。最後の1か月はMAZARIBAでの生活を堪能できた日々だったなぁと思います」

 これまでは仕事を中心としたMAZARIBAでの時間だったが、別の時間を過ごすことができた。このこともシェアハウスだからこそと言えるかもしれない。それぞれ別々の生活を送る人が住んでいることで、生活の仕方が変わったときに家の別の顔を見ることもできる。

 ユキちゃんはこれから東京のシェアハウスで新しい生活をはじめる。賃貸での一人暮らしは考えなかったようだ。ちなみに次のシェアハウスもジモティーで見つけた。

「楽しみですね。私、東京で暮らしてみたかったんですよ」

 ユキちゃんなら新しいシェアハウスでもきっとすぐに順応して楽しい生活を始めるのではないかと、そんな気がした。

 

MAZARIBAに向いている人は

 MAZARIBAは「障害者と健常者が一緒に暮らす」というコンセプトを掲げたシェアハウスだ。MAZARIBAでの生活を通じて、ユキちゃんがこのコンセプトをどのように思ったかを聞いてみた。

「そういったことを知りたくて住んだところもあります。恥ずかしながら、この歳まで生きてきて、障がい者や福祉に関する知識があまりありませんでした。障がいをもつ人と交流や、ウェルトークに参加して、改めて境い目ってなかったんだなぁと再認識しました」

 ユキちゃんはMAZARIBAでの経験を通じて前よりもちょっと自由になれたような気がするという。こういった点はMAZARIBAのコンセプトあってこその経験で、他のシェアハウスではなかなか経験できないものだろう。

 ユキちゃんはMAZARIBAに向いている人についてこのように話す。

「甘えん坊な人ですかね。あとは料理が好きな人にもおススメです。ひとりひとり確立しているので他者に対する受け入れは広いと思います」

 MAZARIBAのアピールポイントは、時間の流れがゆっくりしているところだと話す。また人情っぽさのあるエリアだと感じることも多かったようだ。ゆっくりした時間と人情、こういった点は川崎らしい魅力と言えるかもしれない。

 ユキちゃんのはじめてのシェアハウス生活は非常に実りの多いものだったようだ。これからもMAZARIBAでたくさんの出会いと交流が生まれ続けるだろう。

取材・文:菅谷圭祐